台風22号の接近により天候が危ぶまれたものの、10月9日は意外と安定した曇り空だった。
いつも冗談めかして、
「玲子さんと一日中いれるなら、オレ、玲子さんとずっとベッドの中で過ごしたいな。玲子さんを抱きまくりたい」
そう、豪語していたハル。
なのにいざそうなると、
「オレ、普通のデートがしたい。玲子さんと、恋人同士みたいな時間を過ごしたい」
とてもかわいらしいことを言う。
照れたように言うハルがかわいくて、なんだかくすぐったくて、思わずくすくす笑った私に、
「思い出に残るような、そんなデートがしたい」
ハルの言った言葉は、私の胸を切なくした。
思い出・・・・・。
玄関で、ハルを待つ。
未知とハルが顔をつきあわせて何やら話をしている。
そのふたりを眺めながら、私はやっぱりふたりのことを愛していると確信する。
でも私の体は一つで、私という人間はこの世にひとりしかいなくて・・・・だからふたりを愛するなんて道理から外れていることで、ふたりと交わるなんて決して許されないことで、でも・・・・。
未知
ハル
未知
ハル
未知
ハル
未知
ハル
頭ではわかっていても、体はそうもいかない。
ハルに求められると、私は拒むことなんてできない。
どんなに未知に抱かれて満たされても、どんなに未知から苦しいくらいに愛されても、
「玲子さんを抱きてえよ」
そう言われてハルにきつく抱きしめられただけで、私は・・・私は・・・私の、カラダは・・・・・
「じゃ、未知。玲子さんを、一日お借りします」
深々と頭を下げたハルに未知が笑う。
礼儀知らずで、例え目上の人が相手でも平気で無礼な態度を取るハル。
似合わない台詞と態度に、未知はくすくす笑っていた。
つられたように笑いながらも、私はじっと未知を見ていた。
そして、未知も。
口元は笑っていても、未知も真剣な眼差しで、私を静かに見つめていた。
その私の肩を、ハルが抱く。
不思議な気持ちになった。
見つめ合っているのは未知。
触れ合っているのはハル。
未知と私とハル。
奇妙で歪な、三角関係。
「玲子、行っておいで」
未知は、どんな気持ちだったんだろう。
「うん」
未知は、どんな気持ちで私を送り出したんだろう。
頼もしくて頼りがいのある未知だけど、時々小犬のような目で私を見る未知。
恋人になる前も、私を見つめるその眼差しに、いつだって胸が締め付けられていた。
あんなに切ない顔、ほかに見たことないってくらい、いつももの悲しげな目で私を見ていた未知。
その切ない瞳と表情は、いつだって私を苦しくさせた。
「ほら」
早く連れて行けと言わんばかりに、未知がハルの肩を押した。
未知がきゅっと唇を噛むのがわかった。
俯きがちの横顔が、とても寂しそうだった。
「玲子さん、行こう」
ハルが私の手を握りしめる。
「一日・・・・一日だけ、オレにつきあってよ。そしたら・・・・・・」
そしたら・・・・・何・・・?
切ない顔で、私を見送る未知。
一日だけ、を繰り返すハル。
ふたりの切なすぎる想いが、私の心を絡めとる。
一日。
それは、たった一日が限界だったのだ。
未知も私もハルも。
三人が三人とも、一日が限界だった。
それ以上、一緒にはいれない。
それ以上一緒にいれば、ハルと私は離れられなくなる。
そのことを、ハルも私も・・・・そして、未知も知っていた。