せめて、最後に、思い出がほしい・・・・・。
思えば、ハルと再会してまだたったの三週間。
『よお。久しぶり』
あの日から、まだ一ヶ月も経っていない。
早いような、短いような時の流れ。
だが確実にハルは私の中に入り込み、私にとってかけがえのない存在となってしまった。
道理にはずれた恋。
世の中のモラルや常識からすれば、ハルと私の関係は不倫、つまり婚外恋愛だ。
夫に不満なんてない。
未知に不満なんて、あるわけがない。
心も体も満たされた結婚生活。
時には情熱的に、時には包み込むように、時には激しく、時にはやさしく私を愛してくれる未知。
たとえどんなに愛しあって結婚したとしても、月日の流れが愛なんて風化させるものだと思っていた。
それは、違う。
教えてくれたのは、未知だった。
なのに私は、ハルに恋をしてしまった。
『恋は病』というのは本当だ。
何も考えずに三人で暮らせたら、どんなに幸せだろうとバカなことまで思ってしまう。
「思い出?」
聞き返した未知に、私は頷いた。
多くを語らずとも、私の想いを受け止めてわかってくれる未知。
「それは・・・一日だけ、ハルと玲子・・・ふたりで、過ごしたいってこと?」
未知がそっと私を離して、顔をのぞき込んだ。
「玲子・・・」
未知の唇が、そっと近づく。
目を合わせずらくて、未知の腕の中にいるのにハルのことで胸をいっぱいにしている自分が嫌で、私は顎を引いて未知のキスを拒んだ。
そこへ、
「ただいま」
ハルが帰ってきた。
「おーい、未知。オレの玲子さんを泣かせるんじゃねえよ」
いつものようにふざけた口を叩きながら、ハルが未知と私の脇を抜ける。
「おい」
未知がハルを呼び止める。
変わった様子はないものの、泣いている私をハルは見ようともしない。
「・・・・・出て行く気か?」
未知の問いに、ハルは答えなかった。
「出て行っちゃ・・・やだ・・・」
そう言いそうになるのを必死に堪えながら、私は再び未知の胸に額を押しつけて泣いた。
ぐちゃぐちゃだった。
一日だけ一緒にいて、何になるの?
一日だけ一緒にいれば、私はハルを忘れられるの?
でも・・・・・・・。
「ハル。玲子を一日、貸してやる」
せめて、最後に、思い出がほしい。
離れるくらいなら。
離れ離れになるくらいなら。
せめて、最後に、思い出がほしい。
「おい、未知・・・・」
ハルが深いため息をついた。
「おまえ・・・・・頭、イカれたか?」
「まさか」
何言ってんだ。
未知は笑って、
「思い出をやる。そして、俺たちの前から消えろ」
冷たく、言い放った。
「未知・・・・?」
未知の胸から、顔をあげる。
「・・・・・・ハル」
その肩越しに、ハルがじっと私を見つめていた。